リレーコラム/その5 「インタープリテーション、そしてその広がりの可能性とは」

川嶋直 日本環境教育フォーラム/日本インタープリテーション協会理事

こんにちはインタープリターズフォーラム2018実行委員によるリレーコラムの第5回は、公益社団法人日本環境教育フォーラムの川嶋直です。1984年頃からおよそ30年間山梨県清里の財団法人キープ協会でインタープリターをしていました。とは言っても30年の後半は森の中よりも、部屋の中で人と人をつなぐファシリテーターの仕事が多くなりましたけれども…。

インタープリターだった頃の川嶋直( 1990年頃)
 

●インタープリテーションとは
そもそも、インタープリテーションとは異言語間の通訳の意味です。それが100年ほど前米国の国立公園で、公園に遊びに来た人に自然の素晴らしさを伝える行為をインタープリテーションと呼ぶようになりました。それまではネイチャーガイドと呼んでいたようですが、より深く自然の意味を伝えることの大切さを明確にするために「インタープリテーション」つまり「自然と人間の間の通訳」という言い方をするようになったと言われています。
日本では1980年代後半頃からこの言葉が使われるようになり、2005年の愛・地球博での博覧会協会主催事業であった「森の自然学校・里の自然学校」で「自然学校」ということばと一緒に「インタープリテーション」ということばが広く知られるようになりました。
「インタープリテーション」をインターネット検索してみると、上位10サイトの中の8サイトは「通訳」の意ではなく、「自然公園、国立公園」などでの「解説、コミュニケーション」という意味でのインタープリテーションのサイトが検索結果として出てきます(2018年5月5日現在)。10年前には考えられなかったことですね。


●様々なインタープリテーションの現場を整理してみました
インタープリテーションの考え方とその技術はもっと広い場面で使われても良いと思っています。以下にインタープリテーションの現場をちょっと整理してみました。まだ不完全な整理ですがこうしたものを書けば「いや!もっとある」とか「そうじゃなくって」って意見が出るでしょ?
【以下、略称の凡例: IP=インタープリテーション、IPer=インタープリター】


【自然系カテゴリーのIP】
・自然観察系IP:動物・植物・鉱物・天体等以下の全ての総称でもある最も一般的なIP。
・地球大地系IP:最近ジオパークとして注目されている。自然観察系と比べて季節に関係なくできる部分が大きい地質学・地理学的なIP。
・天文学系IP:街の明かりに邪魔されない場所の晴れた夜には間違いないIP。プラネタリウムの中では時間や天候に関係なくいつでもIP可能。
・気象系IP:誰もが関心を示す「お天気」。その場で感じることができる微気象の解説から、ここ数年〜数十年の気象の傾向を語るIPまで。近年では気象予報士の皆さんが活躍中。
・施設展示系IP:博物館・動物園・水族館・科学館、さらに自然公園などのビジターセンターやネイチャーセンターの施設の展示物を使ったIP。

ジョセフ・コーネルさん(ネイチャーゲーム著者)によるワークショップ@キープ協会(1990年頃)

【人文系カテゴリーのIP】
・街歩き系:その街の「歴史・(食)文化・自然・産業・建築」等総合的な情報を編集して伝えるIP。
・歴史系IP:地域の歴史遺産をめぐるIP。明治以降の近代史の中の産業遺産系のIPにも最近は注目が集まっている。
・建築系IP:歴史系IPの派生とも言える。地域には数百年を超える歴史を持つ建造物は必ずあるだろう。数百年経たずとも昭和の香りを辿るだけでも中々面白い。
・宗教系IP:神社仏閣教会などは歴史・文化・自然・地域の風習など伝えるコンテンツが盛りだくさん。地域のお祭りなどをIPする試みがもっとあっても良いのに…。
・食べ物系IP:IPの対象の自然物が食べることが出来るかどうかに特化したIP。また、地域産の食材を使った食品の加工体験などは参加型IPとして間違いなし。IPの最後に実際の食体験があればもう鉄板。
・施設展示系IP:博物館・文学館・郷土資料館などの施設の展示物を使ったIP。


【アート系カテゴリーのIP】
・絵画系IP:IPerが描く、参加者も描く。描く時間、よく見る時間、ひとりになる時間。
・音楽系IP:IPerが歌う、参加者も歌う。音を聞く、歌を聞く、森の音、川の音、海の音…音を楽しむ。
・メディテーション系IP:ヨガや気功とセットで早朝に気持ち良いIP。森のなかで一人になって寝転び、ただボーッとする瞑想の時間。IPerも語らない静かなIP。
・お笑い系IP:どこまでが真面目なIPでどこからがお笑いIPなのか分からない。そのギャップが楽しい。59分笑わせて最後の1分で真面目なメッセージって…効く〜。
・出会い系IP:参加者とIPerとの出会いではなく、参加者同士を仲良くさせることに必死になるIP。婚活系とも近似種。
・施設展示系IP:美術館の展示物を使ったIP。また歌舞伎などの劇場にあるイヤホンによる副音声解説サービスもここに分類されるか。


● おわりに
上記最初に書いた「自然観察系インタープリテーション」が私達にとって最も一般的なものではありますが、各地のインタープリターはそれぞれ伝える内容(トピック)や伝え方について様々な工夫をしています。上記は私が「勝手に・ただ想像してカテゴライズ」したのではなく、日本中の様々なインタープリターたちの顔を思い浮かべながら、あのインタープリターは「○○系」と呼んでも良いよなぁ〜。と考えながら整理したものです。インタープリテーションにこれまで馴染みのなかった方でも、もし上記の分類で自分に近い(ピンと来た)整理があったら、ぜひ「インタープリターズフォーラム2018」にご参加ください。清里でお会いしましょう。